エスピン・アンデルセン・福祉国家論

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Résumé 勉強会 福祉と自由 第9回
第2部 福祉国家 第4回「エスピン・アンデルセン・福祉国家論」
2009年5月7日

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1)福祉国家とは
 
 五つの構成要素
  ①制度:社会保障制度の体系的整備(公的扶助、医療保険、年金保険、失業保険、社会福祉   サービスなどの制度化)
  ②行政:中央政府が管理・実施・財源上の責任を中心的に負う体制
  ③法律:生存権保障を含む基本的人権思想の普及
  ④経済:完全雇用などを目標とする政府の経済介入
  ⑤政治:国民の意思表示たる大衆民主主義と利益誘導型政治
 
 成立過程
  ・19世紀後半の中央政府への集権的な権限集中
  ・大戦間期の広汎な社会政策・社会保障政策の積み重ね
  ・第2次大戦後の需要管理型の経済政策と大衆民主主義の一般化
 
 ケインズ=ベヴァリッジ主義的福祉国家
  ・ケインズ経済学「雇用、利子、および貨幣の一般理論」(1936)
   政府の経済に対する政策的介入の正当化
  ・ベヴァリッジ報告「社会保険および関連サービス」(1942)
   貧困に対する社会保障の拡充政策          
 
2)福祉国家の形成
 
 ドイツ
  1871~1890年 帝政ドイツ宰相ビスマルク 急速な産業化、労使対立と労働問題
  1883年「医療保険法」、1884年「災害保険法」、1889年「廃疾・老齢保険法」
  1918~1933年 ドイツ共和国(ワイマール体制)社会保険制度の拡充
  1933~1945年 ナチス体制 強い統制経済のもと、社会保険制度は事実上破壊される
  1949~1963年 西ドイツ アデナウアー政権(エアハルト経済相) 「社会的市場経済」
                 政策
  1957年「年金改革」
  1995年「介護保険制度」
 
 イギリス
  1911年「国民保険法」全労働者を対象とした疾病保険、失業保険の強制社会保険
  1942年「ベヴァリッジ報告」
  1946年「国民保険法」
      強制社会保険―最低生活水準までの給付を資力調査なし。国民扶助は画一の資力調      査。
      任意保険―医療・退職年金・失業・労災・出産・児童手当で、全包括的なカバレッ      ジ。
  1990年「保健・医療および地域ケア法」
 
 アメリカ
  1933~1936年 ニューディール政策  
  1935年「社会保障法」老齢年金、高齢者や障害者に対する医療保険
      戦後、均衡型経済への復帰、1960年代半ばまで福祉国家としての前進なし
  1990年「障害をもつアメリカ人法」
 
 スウェーデン
  1932~1991年 社会民主党政権 労働市場会議(LMB)設置(ケインズ的雇用政策)
      完全雇用、経済成長、平等主義の賃金構造、高水準の社会福祉を目指す。
      第2次大戦後 LMBが軸となり、企業の反景気循環的投資計画と積極的労働市場
                  政策
      労働組合は、完全雇用と賃金上昇の実現のために企業の合理化に協力
  1982年「社会サービス法」、1992年「エーデル改革」
  1991年~ 右派政権
 
1) エスピン・アンデルセンの「福祉国家レジーム」論
 
  ・先進諸国の戦後資本主義は、福祉国家を志向し、階級格差の是正、社会的統合、国民生活   の安定などを図る目的をもつという意味で「福祉資本主義」といわれている。
  ・「レジーム」を、福祉国家の国際比較において、国家と市場と家族のあいだに、社会権    と階層化が異なって配列されている変異である、と定義している。
  ・「レジーム」による類型化に当たり、福祉国家の相違が生まれた要因として、次の三点が   重要である。すなわち、階級動員(とくに労働者階級の)の状況であり、階級政治的な同   盟の構造であり、そしてレジームの制度化に関する歴史的な遺制である。
 
 
1)三つのレジーム類型の特徴
 
 1.自由主義型福祉国家
   アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランド
   (イギリスは社会民主主義型の要素を含んでいる。)
  ①国家扶助の受給資格を、資力調査によって低所得者に限定すること(選別主義)
  ②リスクを狭い範囲に限定(残余的)、病気への扶助は貧困者・高齢者・母子家庭に限定
  ③国家が市場を奨励し、個人責任を強調し、社会権の無条件的拡大を避ける
   「小さな国家」を目指し、低所得層への公的扶助を例外とした市場主義的なもの
 
 2.保守主義型福祉国家
   ドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー
  ①伝統的なコーポラティズムであり、階級的地位の格差を維持する身分分断主義
  ②国家主義、社会保険が帝政下で形成され、国家公務員の特権的地位は、現存している
  ③家族主義、男性が一家の稼ぎ手として社会保険の中心におき、主婦に家族給付
   西欧諸国のように、社会保険を中心として、家族主義的基盤を維持するもの
 
 3.社会民主主義型福祉国家
   スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク
  ①完全な普遍主義、すべての諸階層は単一の普遍的な社会保険システムに編入
  ②高度の脱商品化(市場からの脱出)、国家の給付に依存しそのための費用負担は受入
  ③個人の家族からの独立(家族への依存を断つ)、家族による介護の費用の社会化
   北欧諸国のように、社会福祉サービスを中心として、国民連帯を図るもの
 
 
2)「脱商品化」と三つのレジーム類型
 
  ・労働力の商品化により、疎外が生まれ階級が形成され、労働者は市場への従属が強いられ   る。
  ・労働者の脱商品化への希求、市場への従属からの自由が、労働運動、労働者福祉の試金    石。
  ・賃労働以外の社会的収入を得る権利の獲得のための闘争の必要性は一般的に認められてい   る。
  ・マーシャルは「社会権」が労働力の商品化の問題を解決したと考えた。
  ・「脱商品化」とは、労働力商品の脱商品化であり、労働市場に依存することなしに、国家   からの給付や支援で生活を維持することができること。その際、家族からの支援なしに生   活維持ができるという脱家族化(家族支援からも離れること)が同時になされているこ    と。
  ・「脱商品化」の実現の度合いは、福祉国家のレジーム類型ごとに異なる。
 
 1.自由主義型福祉国家
   社会権は、資力調査によって国家扶助を受ける階層に限定している。つまり、市場に参加  し得ない人びとに限定しており、脱商品化とは言えないし、市場を強化する役割をしてい   る。
   また、すべての国民に一定額の給付が行われているイギリスでは、社会権の範囲は大きい  が、額が小さいため、必ずしも脱商品化になっているとは言えない。
 
 2.保守主義型福祉国家
   社会保険が支配的なドイツでは、社会権は受給資格と受給ルールによって厳格に制約され  てきた。また、市場の拘束からの離脱は、社会的コントロールにより制約されている。早い  段階で、脱商品化をある程度進める傾向は見られるが、大きく広めたとは言えない。
 
 3.社会民主主義型福祉国家
   北欧諸国では、脱商品化が最も進んでいる。その内容は、国民は必要なときいつでも、職  務・所得・一般的福祉を失うことなしに、仕事を離れるという選択ができる、というレベル  のものである。
 
 
3)「階層化」と三つのレジーム類型
 
  ・福祉国家はサービスと所得保障を提供するが、同時にそれは社会階層化システムでもあ    る。
  ・「ルクセンブルク所得研究」の調査結果によると、貧困層の中に高齢者が占める割合は、   イギリス29%、アメリカ24%、ドイツ11%、スウェーデン1%以下である。
  ・スカンジナビア諸国についての「生活水準調査」の結果は、特にデンマークの場合、経済   状態の悪化の時期にも、生活水準は向上し続けており、平等化の進展も継続している。
  ・平等化の実現度合いが高いことを示すが、社会階層が消滅したとは言えない。
  ・福祉国家それ自体が「階層化」を生み出しているためであり、その形態は、福祉国家のレ   ジーム類型ごとに異なっている。
 
 1.自由主義型福祉国家
   普遍主義と機会の平等を原理とする自由競争は社会的敗者を生み出し、社会階層は消滅す  ることなく、階層間の格差は拡大する。イギリスでは、ベヴァリッジ型普遍主義により全般  に薄い社会保障給付がなされ、国に依存する人びとと市場に依存する人びとを二分するとい  う点で、階層システムを生み出した。
   また、イギリスでは大きく分けて三層の社会階層が作り出されている。私的保険と職能的  付加給付に依存する特権階層(ホワイトカラー)、社会保険の拠出者である中間層(労働者  階級)、最下層はスティグマを伴う救貧の対象者である。
 
 2.保守主義型福祉国家
   ビスマルクは、社会保険制度により労働者を国家パターナリズムのもとにおき、旧来のギ  ルドや家父長制家族を抑え、労働者に国家依存の気持ちを作り出し、市場への関心を低下さ  せた。
   また、公務員に特権的な福祉を与え、貧困者に対してリベラル型より寛大である。さら   に、国家パターナリズムの保守的代用物として生み出されたのがコーポラティズムである。
 
 3.社会民主主義型福祉国家
   福祉国家を担ってきたのは労働運動であり、初期の労働運動は階級を分割する役割を果た  した。また、産業化の初期に、農民の国家依存を取り込んで、レッドーグリーン連合の形成  に成功。「人民的普遍主義」へと移行した。スウェーデン社民党は、福祉国家を「中間階級  普遍主義」に乗せることに成功した最初の事例である。
 
 
4)ポスト工業化構造の下における福祉国家レジーム
 
  ・現代は、経済や社会において根本的な再編が進行中である、と普遍的に承認されている。
  ・「ポストモダン」「脱物質主義」「ポストフォーディズム」「ポスト工業化」という別の    段階へ。
  ・ポスト工業化理論の第一世代は、全般的な非熟練化とプロレタリアート化、単調労働の縮   小と専門的職種の高度化というプロセスを論じていた。 一方向への収斂の予測
  ・三類型の代表である、スウェーデン、ドイツ、アメリカの「ポスト工業化」的雇用の比    較。
 
 1.スウェーデン
  ・連帯的賃金政策  社会福祉に主導されたポスト工業化型の雇用構造
  ・福祉国家の三原則 ①社会サービス、医療サービス、教育サービスの改善、拡大 ②労働   力の最大化、特に女性量動力の最大化 ③完全雇用の持続
  ・女性雇用を伴った社会サービスの爆発的拡大 供給面ではデイケアのようなサービスの提   供
  ・雇用機会の最適化がもたらす高コスト体質 賃金抑制へ
  ・公共セクターと民間セクターの対立
 
 2.ドイツ
  ・高いレベルの賃金政策 労働供給を縮小する傾向 男性稼ぎ主の所得維持には貢献
  ・公共サービス拡大の動きはない 年金受給者や退職者人口の増大がもたらすコスト危機
  ・アウトサイダーへの雇用拡大を犠牲にして、インサイダーが賃金の極大化を追及する。
  ・非生産人口は60%、アウトサーダーが仕事に参入できない 外国人労働者
 
 3.アメリカ
  ・アファーマティブ・アクションや機会均等法
  ・階級格差が男女間や人種間では縮小してもその内部では拡大するだろう
  ・人種に基づいた二重構造  解消の方向
 
 
2) 戦後の主な福祉国家論
 
  1940 年代 ケインズ「雇用、利子、および貨幣の一般理論」(1936)
        ベヴァリッジ報告「社会保険および関連サービス」(1942)
  1950 年代 T・H・マーシャル「シティズンシップと社会階級」(1950)
       「社会権」と「社会政策」
       「社会政策」(1965)
  1960 年代 ウィレンスキー 「産業社会と社会福祉」(1958)  産業化理論
       「産業社会」と「社会福祉」(社会保障支出の対国民所得比)
         ミュルダール 「福祉国家を超えて」(1960)
  1970 年代 福祉国家収斂説
        ウィレンスキー 「福祉国家と平等」(1975)
        石油危機、スタグフレーション、国家財政赤字-ケインズ経済学の終焉
  1980 年代 新自由主義、新保守主義の台頭
        ミシュラ 「危機に立つ福祉国家」(1984)
        コーポラティズム型福祉国家に着目    
  1990 年代 エスピン-アンデルセン「福祉資本主義の三つの世界」(1990)
        「福祉国家レジーム」論  「福祉国家と経済」(1994)
        「ポスト工業経済の社会的基礎」(1999)
  2000 年代          
        「福祉国家に関する三つのレッスン」(2008)
        脱家族主義化(女性、子ども、高齢者)
 
5)「福祉国家レジーム」論の意義と課題
 
 意義
  ・社会経済的要因論・・近代化の進展に伴い各国の政治体制がほぼ均質な福祉国家に収斂す   る
  ・政治的要因論 ・・・労働運動などの政治的要因により発展水準が大きく異なっていく
  ・社会保障支出に還元される傾向 そもそも福祉国家とは何か 福祉国家は一つとはいえな   い
  ・福祉国家発展の単線的アプローチからの脱却
  ・三つの福祉国家レジーム類型の提示
 
 課題
  ・フェミニストからの批判  
   「脱商品化」について女性は商品化されていない → 「脱家族主義化」という指標を設    定する =福祉国家により諸個人の家族への依存がどこまで軽減されているか
  ・レジーム類型をめぐる批判  
   労働運動との関係でのイギリス、オーストラリア、ニュージーランドの評価や、日本の位   置づけはどうか  →  三類型の中間形態として説明しうる
  ・非営利組織研究からの批判  
   非営利組織の役割を考察に加えていない  → ポスト工業化段階での福祉国家の再編の   問題に焦点を移しつつあり、民間非営利組織についての新たな位置づけが期待される
 
 
3) 日本福祉国家の形成と再編
 
  1947 年 日本国憲法第25条(生存権)施行
       「社会権」思想  福祉国家理念の機軸になる規定  福祉国家を準備
  1961 年 国民皆保険・皆年金の実現
       福祉国家の成立
  1973 年「福祉元年」― 給付水準の大幅引き上げ  福祉国家の確立
       ・老人医療の無料化  ・「5円年金」の実現(厚生年金給付額を2.5倍引き上          げ)、「物価スライド制の導入」 ・健康保険家族の「給付率の引き上げ」          (50%→70%)
  2000 年 介護保険法施行    福祉国家の再編
       介護の社会化、社会保障構造改革の突破口
 
 
 
6)日本福祉国家のレジーム類型
 
 特徴
  ・社会的支出が驚くほど低く、社会的給付の水準も比較的低く、セーフティネットが未発達
   残余主義や私的な福祉に強く依存 → 自由主義型
  ・社会保険は職域ごとに分立、企業福祉は充実、介護や育児での家族の負担は大きい
   家族主義や地位によって分立した社会保険 → 保守主義型
  ・完全雇用を実現し、教育を浸透させている、失業率の低さは北欧並み
   雇用の拡大と完全雇用 → 社会民主主義型
  ・保守主義的な「ビスマルク型」レジームと自由主義的残余主義との混合物
   → 日本型コーポラティズム
 
 現状
   ドイツの保険主義、占領期の社会扶助、制度空白を埋める企業福祉、強い家族主義。しか  し、一方で終身雇用制の崩壊、企業福祉の後退、家族機能の衰退が進んでいる。現状ではレ  ジーム類型を確定できない
 
 
7)日本福祉国家の再編の課題
  ・「市場の失敗」「国家の失敗」「家族の失敗」
  ・雇用と福祉の共倒れの危機
  ・介護保険のアナーキー化
  ・新しい「公共」の創出
  ・福祉国家を再編するのは誰か
 
 
 <参考文献>
  エスピン・アンデルセン「福祉資本主義の三つの世界」(2001)ミネルヴァ書房
  富永 健一「社会変動の中の福祉国家」(2001)中公新書
  宮本 太郎「福祉政治」(2008)有斐閣
  エスピン・アンデルセン「アンデルセン、福祉を語る」(2008)NTT出版

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